ニュースの概要
名古屋市北区役所は、転入手続きのために市民から預かったマイナンバーカード1枚を紛失したと発表した。担当職員は3枚を預かったと認識していたが、後の確認で手元には2枚しかなかった。所在が分からなくなったのは未成年者のカードで、個人情報が記載されている。受け取った枚数と保管している枚数が食い違った時点で、どこで何が起きたのかをたどれる記録がなかった可能性がある。行政窓口では、書類や証明書、カードなど他人の大事な物を一時的に預かる場面が日常的にある。今回の事案は、その「預かる」という行為の管理の甘さを映している。
引用元: 名古屋市北区役所、転入手続きで預かったマイナンバーカード1枚を紛失(Chukyo TV / Excite News)
分析・見解
3枚と2枚のずれは、受け取りの瞬間に生まれる
この事案の核心は、紛失そのものより「受け取った時点の枚数が客観的に残っていない」点にある。職員は3枚と認識し、確認時は2枚だった。どの瞬間に1枚が消えたのか、誰にも証明できない。
家族の転入では、親と子の複数枚をまとめて渡されることが多い。大人は自分で数えて渡すが、窓口側が数え直す手順がなければ、認識違いはそのまま残る。受け取りの場で「3枚です」と声に出し、市民と一緒に確かめるだけで、ずれの多くは防げる。
行政窓口は「預かり物」の管理に慣れていない
金融機関や宅配の現場では、物を預かるたびに受領票や伝票を切る。一方、役所の窓口は、書類を受け付けて処理する作業が中心で、物品を預かる仕組みが弱い。手続きの流れの中で、カードは書類と同じ扱いになりやすい。
しかしマイナンバーカードは、紛失すれば悪用の恐れがある身分証である。再発行の手間も市民に生じる。書類と同じ机の上、同じトレーに置く運用は、重みに見合っていない。
技術より先に、記録の粒度を決める
施設運用DXの観点では、バーコードでの受領管理や、保管棚の履歴記録が有効とされる。確かに有効だが、機械を入れる前に決めるべきことがある。それは「誰が、いつ、何枚を、どこに置き、誰に渡したか」を一件ごとに残す粒度だ。
宿泊施設の忘れ物管理が参考になる。拾得した時刻、場所、拾った人、保管棚の番号を一枚の票に書き、返却時に署名をもらう。紙でも運用は回る。電子化は、この型が決まってから載せるほうが失敗しにくい。
見落とされがちな、手続き途中の「空白時間」
預かりが長引くほどリスクは増える。転入手続きでは、システム入力や上司の確認の間、カードが窓口の裏に置かれたままになる時間がある。この空白時間に、別の職員が触れたり、他の書類に紛れたりする。
対策は、預かり時間そのものを短くすることだ。本人確認はその場で済ませて返し、保管が必要な場合だけ封筒に封をして番号を付ける。預かる行為を例外にする発想が、最も確実な防止策になる。
ビジネスへの影響
自社の「預かり物」を洗い出すところから始める
企業にも、他人の物を一時的に預かる場面は多い。受付での社員証、入館証、取引先から借りた資料、顧客の契約書原本、修理品などだ。まず、自社で何を預かっているかを一覧にしてほしい。
次に、それぞれについて受領記録があるか、返却の記録が残るかを確かめる。記録が口頭や記憶に頼っている物は、今回と同じ穴を抱えている。個人情報を含む物は優先度を上げ、受領票の発行と二重確認を最初に入れるのが現実的である。
小さな運用変更で、事故の確率を大きく下げる
高額な設備は要らない。受け取り時に相手と一緒に枚数や点数を数えて復唱する。担当者以外の1人が、保管と返却の際に確認の署名をする。保管場所を決め、鍵付きの引き出しや番号付きの封筒を使う。この3点だけでも効果がある。
そのうえで、件数が多い拠点はバーコードやQRコードによる受領管理を検討する。導入前に紙で1か月試し、記入が面倒な箇所を見つけておくと、システム化の際の要件が固まる。
事故が起きたときの初動も決めておきたい。誰に報告し、いつ本人へ連絡し、どこまで捜索するかの手順があれば、対応の遅れによる信頼の損失を抑えられる。
